【番外編】夜色オオカミ~愛しき君へ~
泥まみれで、高々と自慢気にネクタイピンを掲げる姿は眩しかった。
ニカッと白い歯を見せた満面の笑顔を見て
…僕の心は、決まった。
『それでは若様、少々この場を失礼させていただきます。』
きちりと頭を下げると、彼は僕のいきなりの有無を言わさぬ申し出にぱちぱちと瞳を瞬かせた。
『どっかいくのか?』
『花嫁を……探してまいります。』
何も偽ることなくそれだけを伝え瞬時に狼の姿に変化すると、彼は黒い瞳を少しだけ見はった。
『わかった。』
『!』
そして至極あっさりそれだけを言うとクルリと踵を返す。
振り返ることなくそのまま前にスタスタと歩きながらネクタイピンを握った手を上げてヒラヒラと振った。
『俺はコレ見つかる前にじいさんに返してくる。』
『はい。……いってきます。』
――――ザッッ!!
応えると同時に地を蹴って
僕はそのまま――一気に駆け出した。
『…がんばれ、橙伽。。』
駆ける僕の背後で、そっと振り返った若君が強い眼差しで僕を送り出してくれたことは…知らなかった。