はぐれ雲。
「…子、聞いてる?」

「あ、ごめんなさい、何?」

「明日は泊まりだから、シャツの着替えを用意してほしいんだけど」

「うん、準備しとくね」

箸を持つ手を止めて、達也が心配そうに顔をのぞきこむ。

「何かあった?」

博子は笑顔を作って話題を変えようとした。

「ううん、達也さんこそ少し痩せたんじゃない?ちゃんと向こうでも食べてる?」

夫に目を合わせられなかった。

「なかなか時間なくて」

「明日お弁当でも作ろうか?」

「いいよ、いつ食べられるかわかんないし。食べようと思って傷んでたらショックだし」

「そう、必要なときは言ってね」

「お弁当と言えば、桜井さんが言ってたんだけど…」

彼はこの間の約束を守れなかったことを気にしているのか、あの靴を見たせいか、あれ以来よくしゃべった。

沈黙を恐れるかのように。

「で、食べると、おにぎりの中からウインナーとか、卵焼きが出てくるんだって。刑事は片手で物を食べるってイメージが離婚した奥さんにはあったみたいでさ。そうすれば、おかずとご飯が一度に食べられて一石二鳥だって。一番桜井さんが驚いた具はなんだと思う?」

「え?さあ…何?」

「リンゴだって」

「やだ、それ。本当の話?」

「さあ、桜井さんのことだからネタかも」

博子の顔を時々窺いながら達也は話を続け、彼女もなるべく明るい笑顔を彼に向けた。

お互いを探りながらの、そんな夕食だった。

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