はぐれ雲。
亮二の部屋では緊迫した空気が流れていた。

「おい、誰がこんなみみっちいことしろっつった、え?」

胸ぐらをつかまれた若い男は顔面蒼白だった。

「すっすいません、すぐに…」
そう言うと、激しく咳き込む。

亮二は乱暴に手を離すと、机を強く蹴り男が持ってきた書類をばらまいた。

「早く行け!」
彼は逃げるように部屋を出た。

「どいつもこいつもチンタラしやがって」
苛立つ兄貴を見ていた直人と浩介は、お互い顔を見合わせた。

浩介が、何度も目をつぶって直人に何かを促す。

そしてとうとう彼は意を決したように、口を開いた。

「亮二さん、少し無理をさせすぎではないでしょうか」

「なに?」

「あいつらなりに、ちゃんとやってます。これ以上無理な動きは警察に感づかれ、やばいと思います」

「警察?」
亮二の顔が強張り、一歩一歩と直人に近づく。

浩介が慌てて二人の間に入った。

「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着きましょう、ね、ね」

直人はひるむことなく、亮二に言った。

「このままでは、下の者も付いてこなくなります」

「…んだと!」

「亮二さん!直人も!」

浩介は必死に二人の間に割って入る。

二人はしばらく睨み合った。

「直人、おまえ。言いたいことあるなら、まわりくどい言い方してないで、はっきり言えよ」

そう言うと、彼は浩介を払いのけ部屋から出た。

大きな音でドアが閉まる。

「直人ぉ、もうちょっと言い方考えろよ。亮二さんマジで怖ぇし」

浩介は困り顔で言った。

「にしても、最近の亮二さん苛ついてるよな~、見たことねぇよ、あんな亮二さん。やりにくいぜ」

「ああ」

直人は前髪をかきあげ、「原因は、あの女だよ」とため息混じりに言った。

「えっと、加瀬って女だろ?」

「さて、どうするかな。当たって砕けろってとこかな」

「直人ぉ、そんなこと言ったってもう無理だろ。亮二さんあの女の前であんなこと言っちゃたし、林さんにも失敗したって報告したし」

浩介が眉間に皺を寄せる。

直人も腕組みをして壁にもたれたが、その表情はどこかしら余裕さえ感じさせた。



< 182 / 432 >

この作品をシェア

pagetop