はぐれ雲。
高校一年の剣道新人戦、決勝戦。
彼は達也の出す技を全てかわしていた。かろうじて当たった小手も、一本にはならなかった。
周りからは「相手は技が出せないぞ、いけ!」といった声がかかる。
しかし、達也にはわかっていた。
技が出せないのは、自分の方だと。
とりあえず攻めてみるが、かわされる。
その点、新明亮二は落ち着いていた。
達也の心を見透かすような、冷たい瞳。
ぞっとするようなエネルギーが、剣先から伝わってきていた。
新明の動きが全く読めない。
逆に、自分の動きは全てお見通しのような気がする。
延長戦にまで持ち込んだものの、達也には焦りばかりが出た。
そこをうまく衝かれた。
同時に動いたはずだったのに、圧倒的な速さで新明の竹刀が達也の面をとらえた。
割れるような歓声が、その瞬間だけ消えた。
ほんの一瞬の気の緩みを、彼は見過ごさなかったのだ。
表彰式の後で、達也は彼のもとを訪れた。
「新明くん、今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ」
彼はあの澄んだというべきか、冷たいというべきかわからない目を、達也と合わせようとはしない。
「あんなに真っ直ぐで早い打ちは初めてです。いつから剣道を?」
にこやかに問う達也。
「まぐれだよ、あんなの」
無愛想なやつだと思った。
「そんなことないですよ。また来年、対戦できたらいいですね」
そう言って達也は右手を差し出すが、彼はそれには応じず軽く頭を下げただけだった。
次の年、彼の姿は試合会場になかった。
もちろん、その次の年も。
そして新明亮二の記憶は、うずもれてしまった。
ベッドに横たわったまま、達也は静かに目を閉じる。
<あいつ、だったのか…>