はぐれ雲。
「おい、浩介。さっさと決めろよ」

亮二は小銭を入れると、赤く点灯したボタンの一つに指を伸ばした。

『なんで、ミルクコーヒーなの?カフェオレじゃだめなの?』

そんな声がしたような気がして、久しぶりに口元が緩む。

その時だった。

フードを目深にかぶった、うつむき加減の男が亮二にぶつかった。

その衝撃で、彼のサングラスがアスファルトに落ちる。

フード姿の男もぶつかった拍子によろめき、しりもちをついた。


「おい、てめぇ!気をつけろよ!」


浩介が怒鳴った瞬間、隣にいた亮二がゆっくりと崩れ落ちた。


「亮二さん!?」

膝をついた彼の横腹から、真っ赤な血が溢れ出ていた。

苦痛に亮二の顔が歪む。

「お、おまえが悪いんだよ!おまえがリサをあんな目に遭わせたんだ!ざっ…ざまあみろっ、くそ野郎!」

わめき散らすそのフードの男の手には、血のついたナイフが握られていた。

浩介が目を剥いて叫んだ。

「おまえ!」

レンだった。

「亮二さん!!」

周りの男たちは動揺を隠せない。

口々に彼の名を呼ぶ。

「…騒ぐな!」

彼はそう怒鳴ると、腹を押さえたまま立ち上がった。

ポタッ、ポタッと、赤い円がアスファルトに次々と描かれる。

「いいか、騒ぐんじゃねぇ…こんなのたいしたことない」

亮二は険しい顔で言った。

いつか見た、鋭く凍りつくような目。

レンは再び恐怖を覚えた。


その途端、
「ひいっ!おっおまえが悪いんだからな!」

声を上ずらせて叫ぶと、レンはナイフを投げ捨てて逃げ出した。

「追え!」

直人の怒号に、浩介たち数人がレンの後を追う。


次の瞬間、亮二は前のめりに倒れた。

「亮二さん!」

すぐに血だまりができる。

ひどい出血。

直人は彼を抱き起こすと、すぐに携帯電話を取り出し救急車を呼んだ。


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