はぐれ雲。

「これ…」

「亮二さんが最期に握ってたんです」

目の前にあるのは、まぎれもなく博子が高校時代の剣道大会新人戦に、亮二にあげた小さな巾着袋だった。

ところどころ擦り切れ、鮮やかな紫色だった面影もない。

そしてそこには「黒いもの」がこびりついている。

血だと、すぐにわかった。

博子はゆっくり手を伸ばす。

指が震えていた。

「やだ…前に橘さんが言ってたこと、本当だったの?あの人、まだこんなもの持ってたの?そんなの…新明くんらしくないわよね、ね、浩介くんもそう思うでしょ?」

彼は苦しそうに何度も首を横に振った。

「顔…亮二さんの顔、すっげぇホッとしてた。いっつも怖い顔してたのに、あんだけ血が出て痛かっただろうに、最期は眉毛下がっててさ、口なんか笑ってるみたいでさ…」

横たわる亮二を思い出してか、浩介はまたティッシュに手を伸ばす。

「右手からその赤い紐が見えてて…なんだろうって手ぇ開いてみたら、それが出てきて…」

「……」

声がなかなか出てこない。

「握りしめてたんだよ、それ。
あの人は間違いなくあんたを想ってた、最期の瞬間まで…」

「そんな…彼がこれを?」


博子はそっと血の付いた巾着を手に取る。

<新明くん…>

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