はぐれ雲。
「亮二さんさ、考え事したり大きな決断する前とかによくポケットに手ぇ突っ込んで、空を見てたんですよ。俺が勝手に思うことなんだけど、そうやってる時の亮二さん、きっと博子さんのこと考えてたんじゃないかって」

「……」

「それさ…それはずっと亮二さんを支えてきた物だよ。言ってみれば、あの人そのものだよ。だからあんたが持っとかなきゃいけねぇって、そう思って…」

そんな浩介の言葉に、博子は微笑んだ。

<本当にずっと持ってたのね。
神頼みはしないって、これを渡した時に偉そうに言ってたくせに。これには頼ってたの?バカね、新明くんは。
本当に意地っ張りで、素直じゃないんだから。
縫い目がとんでるって言ったじゃない。
小銭入れにもならないって、そう言ったじゃない。こんな役にも立たないものをずっと…>

熱いものがこみ上げてきたが、博子は必死でこらえた。

こびりついた亮二の血を、そっと指で撫でる。

「直人が言ってた。あいつ、亮二さんが刺されてから病院に運ばれるまで、ずっとそばについてたんだけど…」

浩介は、一度目を閉じ呼吸を整えてから言った。

「涙、流してたって…」

「え?」

「亮二さん、泣いてたって。それ握りしめて」

「泣い…」

「泣いてたんだよ」

苦しい、胸が苦しい。


こぼれ落ちそうな涙を我慢して、彼女の頬が引きつってしまう。


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