喫茶投稿

祈りと赤面

「おにいちゃん、袖とめてくれない?」
 香月が飾り紐を持って部屋に入ってくる。
 学園祭で演劇をやるとかで、自分で縫った衣装の試着に四苦八苦している。賢者の役らしいが、なかなか様になっていると思う。
「もうちょっと明るい色がいいんじゃないか」
 グレーが基調のカラーリングは少しばかり冷たい印象が強すぎないだろうか。
「雨は止む。星は眠る。夜が嘆きを抱き、安らかな闇に誘う」
 香月が両手を胸に当てて言う。
「台詞か」
「うん」
 ハマり役ってのは、こういうのを言うんだろうな。
「学園祭いつだっけ?見に行くよ」
「え~、いいよ」
 顔を赤くする香月。
 目立ちたがりのくせに照れ屋。
 こんな妹がいると羨ましがられるものだが、実際嬉しいものだ。
 いつまでも一緒にいられるわけじゃないが、今はその嬉しさに浸らせてもらおう。
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