喫茶投稿

特別な日

「そんなに沢山、何に使うんだ」
香月がカゴの中から取り出す大量の飴を見て、思わず疑問を口にしてしまう。
四次元ポケットか。
手提げにしても小さいのに、これでもかと飴が出てくる。
「ふふ~ん、明日になれば分かるよ」
満面の笑みで言われては何も言えない。
「明日…何かあったか」
思い当たるところがない。
「む~、お兄ちゃんやっぱり忘れてる~」
香月が少し不機嫌になってしまう。
何かまずいことを言ったようだが…
「明日になったら、絶対びっくりさせてあげる」
一瞬で表情が戻る。
明日…なんだったかな…

そのまま、台所を締め出される。
居座った香月は、一人で大騒ぎしながら何かを作り始めたようだ。

翌朝。

窓を開けて塀の上を歩いて来る猫と遊んでいる所へ、香月が部屋のドアをノックする。
「入っていい?」
「ああ」
入って来た香月は、何か包みを持っている。
ははあ、さては昨日騒いでたのはコレか。
「はい、バレンタイン手作りチョコだよ」
「これのために、台所占領したのか」
受け取りながら頭を撫でてやると、
「それだけじゃないよ」
香月はもう一つ包みを差し出す。
「メインはこっち」
「ん?」
促されて包みを開けてみると、光沢のある物が。
「これひょっとして、テトラボールか?」
テトラボールというのはデパートに出店している洋菓子店の人気スイーツだ。
チョコ、黒糖、キャラメル、飴という四つの甘味が絶妙に調和した、俺の好物。
「ネットで一部だけどレシピ公開してたから、参考にして作ってみたの。味は自信ないけど…」
不安気に言う香月の前で一つ食べてみせる。
「…ん、キャラメルが少し固いな。普通の使っただろ。レシピには生キャラって書いてなかったかな?」
「はう…」
図星だったらしく、うなだれる香月。
「四つの甘味を合わせるのは難しいんだ。ここまで作れたら上出来だよ」
「あ…」
香月が照れたような顔になる。
「ところで、今日はバレンタイン以外に何があったかな」
どうしても分からない。
「あ~、やっぱり忘れてる~」
頬を膨らませながら、香月は俺を指す。
「今日は、お兄ちゃんが四人目の家族になった日なんだよ」
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