喫茶投稿
『F』
美術館の地下展示室。
彫像をスケッチしていてふと気になった。
台座に何か彫ってある。
「文字?」
彫った上から引っ掻いたようで判別しにくいが、
『F』のようだ。
F…何かの頭文字か?
そういえば、本館の玄関に妙なことが書いてあった。
『Fは何のFでしょう』
なんでも、それらしい単語を誰かが思いついたら彫像の題名に使うとか。
いや、本来の題名はどこへ行った?
などと思いながら、
「F…Fか…」
つい、のせられている。しかし、閉館まであまり時間がない。
スケッチはほぼ仕上がっている。
「まあ、帰ってから考えるかな」
悩むのはやめにして、片付けにかかる。
本館に戻り、蛍の光が流れる中ゲートを抜ける。
ふと案内板に目をやってみると、例の彫像には作者の銘や表題らしきものが見当たらないらしい。それであんな企画をやってたのか。
しかし、作者が銘を入れなかったということは、あれは失敗作だったのかも知れない。
だとすればあのFは、
『fail』のことか。
作者としても、後世に残したくはなかったのかも知れない。
それが名作と呼ばれてるんだから、不思議なものだ。
それにしても、そもそも何のつもりであんな狼の頭から腕が何本も生えたような彫像なんか作ったんだろう。
あんな怪物、よく考えたよな…
そういえば確か、頭文字Fのあんな怪物いたような…
何だったかな…
< 13 / 18 >

この作品をシェア

pagetop