喫茶投稿
惜敗の煙
「あのさあ」
リントが塀の上をてくてく歩きながら言う。
「何スか?」
ステッキで肩をトントン叩き、ガレアは見上げる。
「一応、こっちの世界ではガァちんは未成年なんだからさ。タバコはマズいんじゃない?」
尻尾で口元を指す。
「ああ、これ電子タバコッスよ。煙に見えんの水蒸気だし」
言いながら、ガレアは物陰に視線を送る。
最近、彼女が通う学校では塀に落描きをする悪戯が多発していた。
そこで、風邪でダウンした風紀委員に代わってガレアが犯人を探すことにしたのだ。
「だからって、こんな夜中に見回りなんかしなくても…」
リントは人間でいえば還暦を迎える高齢のため、夜には弱いのだ。
「だぁらついて来なくてもって…いた!?」
微かに何者かの動く気配を感じ、ガレアはステッキを構えて走る。
「重力結界で取り押さえてやるッス!」
呪文を唱えるガレアを見て、リントが慌てる。
「ガァちん、ムリだよ。成功したことな…」
遅かった。
「ぅきゃ~っ」
何かに引っ張られるようにガレアはリントの視界から消える。
追ってみると、花壇の脇でひっくり返っていた。
「だから言ったのに…犯人は?」
「逃げられた…」
呆れ顔でガレアを見下ろすと、リントはまたてくてく歩き出す。
「ぼく、もう限界。帰って寝てるからね」
欠伸をしながら、今度はデブ猫がガレアの視界から消える。
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