喫茶投稿
惜別の風
タッタッタッ
塀の上を、大きな黒い猫が駆けていく。
「リント、おはよう」
塀の壁を歩いていた少女が声をかける。
リボンでくくった髪がふわふわと踊る。
『あまり、人前で術を使うのは感心しないね』
リントの声はガレアにだけ聞こえる。姿はともかく、二人はれっきとした魔族だ。
『そのブーツ、ルディナのものだね。そうか、もう10歳になったか』
「うん、お母さんが作りなおしてくれたの」
リントが気づいてくれたのがうれしくて、ガレアは爪先をトントンと鳴らす。
「旅立ちの時が近い。リントにもしばらく会えなくなるね」
ガレアがうつむいて呟くと、ブーツの羽飾りがパタパタと動く。
『私が泣かせたと思っているのか?やれやれ』
リントは溜め息をつき、尻尾で印を切る。
すると、ガレアの黒い瞳が青く変わっていく。
『私の暗闇を見通す力を分けてあげよう。どこにいても、ガレアは一人ではないよ』
「リント…」
 顔をくしゃくしゃにしてガレアはリントに抱きつく。
「帰ってくるまで…待っててくれる?」
『魔族にも寿命はある。だが、ガレアが旅を終えるまでくらいは持つだろうさ』
「うん…」
多分、それは嘘だ。
ガレアはもう何も言えなくなって、リントの毛皮に顔を隠した。
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