喫茶投稿
空の墓標
「飛行機雲を見ると、憂鬱になる」
ラルフはシフォンケーキにフォークを立てながら言う。
「なんでさ。お前、パイロットだろうに」
大河が不思議そうに尋ねると、ラルフは今まさに空に描かれた飛行機雲に目をやる。
「あの軌跡が、冥府へ向かう道に見えんか」
普段涼しげな表情を絶やさないラルフの瞳が、深い憂いを湛える。
「私はな、空に憧れてパイロットになったわけではない」
確かに、ラルフは元々地上の消火部隊にいた。
「死者の魂は天に帰ると言う。私にとって空は冥府の入り口…」
「まあ、食えよ」
栞を挟むようにラルフの言葉を遮り、大河は自分のケーキを差し出す。
「生きとし生ける者にはこの世で果たすべき役目がある。親父さんも、その役目を果たしたんだろうよ」
大河は席を立ち、レシートを手に取る。
「お前にも、果たすべき役目があるはずだ。それを果たすまでは、死んだりしないさ」
大河が立ち去った後も、ラルフは飛行機雲を見ていた。
少しだけ、気が楽になった。
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