NAIL
「ふん、私は何もしとらん。第一、証拠がない。だろう? さ、馬鹿なことはもう言うんじゃない。まだ会社を辞めたくはないだろう」

 勝ち誇ったような得意気な顔。自分が優位に立ったとばかりに森山は鼻息を荒くした。

「課長が私を誘ったのは、課の皆が知っています。……変な噂が流れたら、私も困るんです」

 ハンカチで目尻を押さえながら、上目遣いで相手を見据える。美知子は勝った、と思った。森山の顔色が見る間に変わっていったからだ。手で口元を覆い、眼球は左右に忙しなく動いている。どうしたものかと思案しているらしい。

 部下と恋仲になった、との噂だけなら男の森山は一向に構わないだろう。だが、出世を気にする彼にとって、部下に被害届を出された、と噂が広まってしまうのは避けねばならなかった。
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