それでも君が。
──蒼君。
まだあなたの中に、私はいますか?
優しい優しい蒼君。
私への態度は変わっても、あなたの優しさは何も変わらない。
あなたが、好きな人とじゃないと恋人同士になんてならないことは、分かってる。
でも。
数秒後には、分からない。
私じゃない誰かを、あなたのその綺麗な瞳が映したら……
あなたの中で、私は“無かったこと”になるかもしれない。
それが、怖い。
怖くて怖くて仕方ないの。
「ねぇ羽月」
澪ちゃんが、私の身体を柔らかく包んでいた腕をほどき、私のびしょ濡れの頬を撫でた。
ズッと鼻をすすり、目を開けると、澪ちゃんは、眉を寄せて唇を優しく緩めていた。
「あまり難しく考えないで」
そして、そう言う。
「……え?」
「羽月は。蒼先輩のこと、どう思ってる?」
「……どう、って……?」
「どう思ってるの?」
「……好き」
「……ん」
澪ちゃんはニコリと笑って頷いた。