それでも君が。
藤堂君はそう言って、自分の胸ぐらを掴む蒼君の腕を振り払い、近くにあった机の脚をガンッと蹴った。
その机は、倒れこそしなかったものの、元あった位置よりだいぶずれてしまった。
「何で俺がこんなこと言わなきゃいけねぇんだ」
藤堂君は、これ以上不愉快なことはないと言わんばかりの口調でそう言い、私を睨んでくる。
何か言われるのかと思って構えたけれど、彼は何も言わずにただ息を吐き、入ってきた時と同じドアに向かって歩いた。
そして乱暴にガラッと開け、何かの憎しみをぶつけるように、叩きつけるように閉める。
バンッという音が、響いた。
その音があまりにも大きくて、その後、教室の静かさがやけに際立った。
──私を睨んだ時の藤堂君の目……。
少しだけ温かいものを感じた気がするのは、彼に対する私の気持ちが変わってきたからだろうか。
「……蒼君ごめん! ちょっと待ってて!」
蒼君は、一瞬にしてビックリしたように目を見開いたけど、引き止めることはしなかった。