それでも君が。
「蒼汰は、何も変わってない」
ドアを閉めて振り返ると、晴君が低い声でそう言った。
彼は、ジッと私を見つめている。
「……何も……?」
そう聞き返すと、晴君はそれには答えず、口元に微かな笑みを浮かべた。
「ちょっと、元気がなくなっただけだよ」
「……うん」
「……最近、同じクラスの奴にちょっかい出されてんだって?」
「……と、藤堂君のこと?」
「いや。名前は知んねぇけど」
「……誰から聞いたの?」
「見失うなよ」
私からの質問にかぶせるようにしてそう言った晴君。
この数学準備室がある校舎は、使われる教室も少なく、人通りがあまりない。
遠くから聞こえる声だけが響く。