それでも君が。




その時だった。



キュッ……と、スリッパが床を擦る音がした。



背後からだ。



私と晴君は、一斉にそちらに目を向けた。



廊下の角から身体を出してこちらを見ていたのは、澪ちゃん。



晴君が、私の顎にかけていた手を離す。





「澪ちゃん!」





澪ちゃんは、私に呼ばれたのにも関わらず、無表情のままで私達を見てくる。





「……澪ちゃん?」





再度そう呼ぶと、彼女はハッとしたように目を開き、「あ……」と言った。



でも、次の瞬間には……



澪ちゃんは、その大きな目に、うっすらと涙をためたのだ。



目を見開いた。



澪ちゃんと私達は少し離れていたから、涙をためた“気がした”だけかと思ったからだ。



だけど、自慢じゃないけど、視力はいい。



間違いなく、澪ちゃんは涙をためていた。





「……澪ちゃん?」





そうポツリと響いた私の声。



それが聞こえたか聞こえなかったか分からないけれど──



澪ちゃんは私達に背を向け、また廊下の角へと姿を消した。




< 236 / 292 >

この作品をシェア

pagetop