それでも君が。
その時だった。
キュッ……と、スリッパが床を擦る音がした。
背後からだ。
私と晴君は、一斉にそちらに目を向けた。
廊下の角から身体を出してこちらを見ていたのは、澪ちゃん。
晴君が、私の顎にかけていた手を離す。
「澪ちゃん!」
澪ちゃんは、私に呼ばれたのにも関わらず、無表情のままで私達を見てくる。
「……澪ちゃん?」
再度そう呼ぶと、彼女はハッとしたように目を開き、「あ……」と言った。
でも、次の瞬間には……
澪ちゃんは、その大きな目に、うっすらと涙をためたのだ。
目を見開いた。
澪ちゃんと私達は少し離れていたから、涙をためた“気がした”だけかと思ったからだ。
だけど、自慢じゃないけど、視力はいい。
間違いなく、澪ちゃんは涙をためていた。
「……澪ちゃん?」
そうポツリと響いた私の声。
それが聞こえたか聞こえなかったか分からないけれど──
澪ちゃんは私達に背を向け、また廊下の角へと姿を消した。