それでも君が。
お母さんは入り口を塞ぐように棒立ちになる私をよけるようにして、部屋に入る。
「熱はどんな感じ? 大丈夫そうなら学校……」
「蒼君は……いつ、出発するの……?」
「……お昼前の便って言ってた気がするけど」
「………」
「ねぇそれより羽月、学校……」
「唇に残ってるの」
「……え?」
テーブルの上に置いたままのポットやコップをお盆に乗せていたお母さんの手が、ピタリと止まった。
お母さんの頭の上に、ギクリという効果音をつけてもいいくらいだ。
私はお母さんに寄り、肩に手を置いた。
「唇に……蒼君の唇の感触が残ってるの! キスしてくれた……絶対……」
「……寝ぼけてるのよ」
「蒼君にキスされたら……死んでたって分かるよ」
目を見開き、私にその視線を当てる。
私の顔を見たお母さんは、更に目を開いた。
きっと、私が泣いてるから。
何が悲しくて
何が苦しくて
何がそうさせるのか、何も分からないけれど。
私は泣いてる。
まだ、熱があるからかもしれない。