それでも君が。



ほんの少しだけ、空からは水が降ってきていた。



そのせいか、熱の時とは違う頭の痛みがある。



きっと、いつもの偏頭痛だ。



でも、気にならない。



とにかく、蒼君に会いたいんだ。



隣の蒼君の家には、もう誰もいなかった。



それもそのはず、もう8時だ。



空港行きのバスが出るバス停まで、直行するつもりだった。



通学、出勤ラッシュもとうに終わり、人通りのない、細い路地。



近道だから。



私はそこに足を踏み入れた。



雨と傘のせいで、少しだけ視界が悪い中、パシャパシャと、水を跳ねる音がする。







気持ちが蒼君にだけ向いていたから、周りが見えていなかったのかもしれない……。







私は、数十メートル先で、まるで電信柱のようにして立っていたその人に、気付かなかった。




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