それでも君が。
その人の前を通った瞬間、私の腕が、何かに強く握られた。
目を見開く瞬間しか、与えられなかった。
腕を見ると、大きな手に掴まれていて……
本能的に振りほどこうとするも、全くかなわない。
もはや、脳内はパニック状態で……
叫ぼうとしても、口さえ開こうとしてくれない。
そんな無駄なあがきをしている内に、私はその腕に強く引っ張られ、その勢いで傘を落とした。
私の腕を掴んだ張本人の顔を見た瞬間だった。
頭の中で、水を入れた風船がパーンと弾けたようになった。
腕を掴んでいるその人は……
帽子を目深にかぶっていて、目は見えないけど……
明らかに、見たことのある人だった。
ヒゲを剃り残したのかと思う程、綺麗とは到底言えない口周り。
ワシみたいな鼻。
無骨な手。
そして何より……
ガッシリしている体に羽織った、紺色のジャンパー。