それでも君が。
どうしようもなく恐怖の渦の中心にいるはずなのに。
頭の中で、やけに冷静な自分が言った。
──私は……
一度、この人に……
「お、お前だけ……」
男が、うめくようにしてそう言った。
頭は混乱し、息が出来ている気さえしない中……
様々な映像が頭の中に溢れていた。
白黒……
カラー……
それらが入り混じり、訳が分からない程で……
「……づき!」
遠くから
とんでもなく遠くから、声が聞こえた気がした。
でも、それが“気”だけではなかったのだと、数秒後に思い知る。
「羽月!!」
蒼君の声が、ハッキリと耳に届いた。
声がした方に目を向けると、そこには、こちらに向かって必死に走ってくる蒼君。
意味が分からないままに、胸騒ぎがした。