それでも君が。
男がパシャパシャと水たまりを蹴りながら走っていく音がした。
その時初めて、自分の聴覚が正常に戻ったと気がついた。
今まで、男と蒼君が発する音しか聞こえてなかった。
それに気付いたのとほぼ同時に、蒼君の膝が、地面に吸い込まれるようにして……
彼は、地面に膝をついた。
──横腹に、手を当てて。
黒い予感が……
現実になったと知った。
彼の、真っ白なシャツの横腹付近が……
真っ赤に染まっていた。