それでも君が。
「羽月! 早くしないと、先輩行っちゃうよ!?」
澪ちゃんに肩を揺さぶられ、ハッとした。
そうだ。
家は隣なのに、今まで全然会えなかった。
今やっと、会えたのにっ……
「蒼君!」
走って追いかけるには、行き交う人が多すぎるし、少し遠い。
私は、気付いたら彼の名前を叫んでいた。
私と澪ちゃんの横を通り過ぎる人達が、チラチラと見てくる。
でも、そんなのは気にならなかった。
それよりも、衝撃的なことが起こったから。
私の呼びかけに、蒼君は振り向いてくれたんだ。
確かに、振り向いたんだ。
それなのに、少しだけ私を見つめた後、眉をギュッと寄せ、私から目を逸らした。
隣にいる秋山先輩もまた、私に気付き、私を見てきたけれど──
少し口角を上げただけで、蒼君と同じように私から視線を外した。
──蒼君……
私……
ここにいるんだよ?
いつもみたいに“羽月”って……