それでも君が。
気付いたら、晴君の家の前に立っていた。
あの後、秋山先輩と肩を並べて去っていく蒼君が見えなくなるまでボーっと立っていた私は、澪ちゃんの声で我に返った。
“羽月。帰ろっか”
家に着くまでの10分間、澪ちゃんはただ黙って私の横を歩いてくれた。
そして、何か慰めの言葉を口にするでもなく、私に「またね」と言って、帰っていった。
澪ちゃんの小さな背中が見えなくなると、私の足は勝手に、隣の隣……晴君の家に向かっていた。
“結城”と書かれた表札を、ボーっと見下ろす。
あれ……?
私……晴君に会って、どうするつもりなんだろう。
何を言いたいんだろう……。
目の前の文字が霞む。
立ちくらみさえ起きそうになった、その時。
門の向こうの玄関のドアが、ガチャリという音を立てて開いた。
目だけをドアに向け、その人を見る。
そこには、ティーシャツにラフなジーンズを履いている晴君が立っていた。
別にビックリした顔もせずに私を見て、ドアを大きく開いたまま止めた晴君。
顔を一瞬だけ家の中に向け、私に“入れ”と示す。
私は小さく頷き、門をくぐって、促されるまま家に入った。