それでも君が。




「おばちゃん達は……?」





そう聞くと、晴君はただ一言「仕事」と答えた。



それもそうか、と思った。



今日は平日だ。



玄関で佇む私に「靴、脱げよ」と言った晴君は、既に部屋に上がっている。



また頷き、靴を脱いで上がった。



床を見つめる私の視界に、大きな手が。



晴君が、手を差し伸べてくれてる。



顔を上げると、晴君の凛々しい顔。



切れ長な目は真っ黒で、いつも怒ってるように見えるんだ。



でも、その目は今、優しく私を見つめてくる。



差し出された手に自分の手を重ねると、彼はギュッと強く握ってくれて……



そのままの状態で、目の前にある階段を上っていくから、私もそれについていった。



晴君は、いつもこうしてさりげない優しさを与えてくれる。



周りの人のこと、見てないようで、ちゃんと見てるんだ。



私に今何があったのかなんて知らないはずなのに。



晴君のこと怖いって言う人はたくさんいるけれど、私は大好き。


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