それでも君が。
「蒼汰。入れよ」
そう言って、私の頭に当てていた手を離し、晴君は立ち上がった。
私は、今晴君が座っていた所をただ見つめる。
怖い。
ずっと連絡をくれなかった蒼君。
私が呼んでも、振り向いてくれなかった蒼君。
今……どんな気持ちで私を見てるの。
ギュッと目をつぶった瞬間、私の頭に、蒼君の言葉が降りかかってきた。
「……邪魔だったか」
──……え?
思わず、まだ立ったままの彼を見上げる。
蒼君は目線だけを少し下げるようにして、私を見ていた。
「蒼君……? 何言っ……」
「別に大した用事じゃないし。帰るわ」
「えっ……ま、待って!」
身を翻そうとした彼を、引き留める言葉が咄嗟に出た。
蒼君は、もう私からは目を逸らしていて、廊下に目を向けていた。