それでも君が。




少し、前向きになれそうな気がした。



今こうして会うまでは、暗いドロドロしたものが心を占めていたけど。



蒼君の微かな笑みと、この優しさだけで、そのドロドロは一瞬にして消化される。



こうして何か一つ叶えば、また新しい欲が出てくるんだ。



両ポケットに入れられている蒼君の手に、触れたい……。



でも、きっと許されない。



晴君の家で言われた“触るな”が、頭の中で響いた。



ふと顔を上げると、カップルらしき男女がこちらに向かってきているのが見えた。



彼氏の方は、自転車を押してて……



そのハンドルを持つ彼氏の手に、彼女の手がそっと添えられている。



少しじゃれあうようにしながら。



──仲、いいなぁなんて、ちょっと羨ましく思う自分がいた。



すると、その人達が私達の横を通った時。



彼氏が冗談でも言ったのか、高らかに笑った彼女が、彼氏を軽くドンっと押した。




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