それでも君が。
そんなつもりはなかったのだろうけど──
彼氏は少しわざとらしくバランスを崩し、自転車を持ったまま、私の方にグラッと傾いた。
すると、その彼が「わっ!」と叫んだ。
冗談のつもりが、本当にバランスを崩してコケそうになったんだろう。
私は、その男の人が自転車と共にこっちに傾いてくるのを見て、目を閉じるしか出来なかった。
──ぶつかる!
そう思った瞬間、ガシャッという音が響いた。
目を、そっと開ける。
目の前には、蒼君の背中。
私の手首は、蒼君の大きな手にガッシリと掴まれていた。
咄嗟に私の身体を自転車とぶつからない位置に引っ張ってくれたのだと、理解した。
でも、蒼君がすごいのはそれだけじゃない。
男の人と共に倒れそうになっていた自転車のハンドルも、ガッシリと握っていたのだ。