それでも君が。
靴箱の所で蒼君と別れ、教室に入ると、ザワザワとした空気の中、パシッという乾いた音が聞こえた。
思わず、俯かせていた顔を上げた。
「マジさいてー! 殺すぞ!」
ヒステリックな女の人の声に、教室にいた皆はポカンとして黙っていた。
私は、何故かドアに隠れるようにして、音がした方に目を向けた。
声を上げた女の人は、グッと力を入れたようにして立っていて。
その先には、ダルそうに椅子に腰掛け、右足を左の膝にかけた藤堂く……エロ魔神が。
──修羅場か……
朝っぱらから……と思い、何故か私の方が暗い気持ちになる。
「マジ、あんた何なの!? あれだけ人に気ぃ持たせるようなことしといてさぁ!」
女の人は、ゆるくウェーブがかかったロングの髪の毛を揺らしながら、怒鳴った。
周りの皆が、その事態に目を見張っている。
すると、ずっと眉をしかめて黙って机を睨んでいたエロ魔神が、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
ガタッという音が、やけに響いた。