執事と共にお花見を。
「こんにちは。ちょっと、聞きたいことがあって」

「俺にかい?」


頭に白いタオルを捲いて剪定をする壮年の男性――恵理夜の屋敷の庭師だった。


「あの、痛んだ桜の咲かせ方を、教えてくれませんか」

「痛んだ桜ってのは、どの程度の痛みなんだい?」

「……多分、内側から腐りかけてる、見たいなんですけど……」

「そいつぁ難しいぜ。いかんせん枝に栄養を送る力がもうないだろうから」

「一枝だけ、咲きそうな蕾を、どうしても咲かせたくて……」

「うーん、そうさなぁ……」


と、喉の渇きを潤すために清涼飲料水のペットボトルを口にした瞬間、庭師の手が止まった。
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