オトナな初恋
無言の二人。


軽く聞き流してしまえばよかったのに。


「あの…今言ったこと忘れてもらって良いですか?恥ずかしいので…」


『〜ッおい早坂!この子すげーいい子じゃないか!部下とか言って本当はおまえの彼女とかじゃないのか?』


『いいからなんか、おすすめ適当に作って持って来いよ。俺も腹減ってるんだから!』


『ちッ。シカトかよ。お前が普段頼んでるもん作ってやるよ。
飲み物は?ビールでいいか?明日は休みなんだろ?車は明日取りに来るまで、いつものように、ここに置いて行けばいいよ。』


『いや、今日は桜井を送らなきゃいけないから、ウーロン茶でいい。桜井は何飲む?』


「あの、早坂主任飲んでも良いですよ?」


『何言ってるんだ。送るって言ったのに飲んだら、どうやって帰るんだ?』


「早坂主任の家に帰る前に私の家があるんですよね?だったらタクシーで帰るとき降ろしてもらば良いじゃないですか。」


『そうだよ。お前が酒飲まないなんて、それこそ明日嵐になっちまうよ。この子もこう言ってるんだし、久しぶりに来たんだから、飲んでけよ。な?』


『しかし…』


「そうですよ。その方が私も気兼ねなく飲めますし。ね?そうしましょ?」


本当は飲めないんだけど…私のために遠慮させたくないもん。


『じゃあ、二人ともビールってことで!!今もって来るからな!』


『気を遣わせてしまって悪いな。』

あ、バレてた?


「いえ。その方がお友達も喜びますしね!」


『…そうだな。』


ふっと笑った早坂主任。
私を見つめる目。

いつもたまに見せる笑顔。
でもいつもとは、ちょっと違う。

そう。この目。傘を返したときに見た。
優しい、優しい目。

私が一目で好きになった笑顔だ。



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