オトナな初恋
『そうだな、腹減ったな。…よし飯でも食いに行くか?』


「は?」


『あ、これから予定とかあるなら、このまま家まで送るけど。』


「い、いいえ!予定なんてありません!ぜひ行きたいです!!」


『…そんなに腹減ってたのか?じゃあ…行くか。』


震える肩が、声が、笑いをこらえてるってことを教えてくれる。
きっと私がそんなに飢えてたんだって思って笑ってるんだ。


違うのに!
確かにお腹はすいてたけど、誘われて嬉しかっただけなのに!!


でも本当の事を言えるわけもなく、
「はい」と返事だけをして、連れもらうことにした。



ついたところは小さな居酒屋だった。
中へ入ると、そこはカウンターしかないお店。
壁にはきれいな字で書かれたメニューが貼られている。

ちょうど奥の壁際の席が空いててそこに通され座った。

『悪いな狭い店で。ここ知り合いの店なんだけど、味は保証するから。』


『悪かったな。狭い店で。いやなら他に行け。』


わたしにお絞りを渡しながら店員さんが言う。


『何だよ聞いてたのか。味は良いとも言っただろ?』

笑いながらそう言う早坂主任。
きっとこの店員さんが、知り合いの人なんだろう。


『久しぶりだな。しかもいつもは一人か、関口としか来ないお前が、女連れだなんて。明日雨でも降るんじゃないのか?』


『ほっとけよ。会社の部下なんだ。遅くまで仕事させちゃって、腹すかせてたから、連れてきた。』


「どうもはじめまして。関口主任ともお知り合いなんですか?」


『そう。俺ら同じ高校だったんだよ。こいつ態度でかくていやじゃない?』


「全然です!むしろ尊敬してますから!」


ついでかい声で言ってしまった。
店員さんも早坂主任も驚いた顔してる。

  
「す、すいません。つい…でも態度でかくていやなんて思ってません。」


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