男は死んだのだ
フワフワと体が浮いている。体が軽くてなんだが変な気分だ。地面と呼ぶべきものは雲だ。


遠くに金色に光った頑丈そうな扉が見える。うん、やっぱり死んだのか。ここは天国...俺は天国行きなのか...。


周りにはたくさんフワフワと浮いている人がいる。「人」と呼んでいいのか分からないが。

みんな扉に向かっている。おお...歩けるんだな。足無いのに...。どうやら自分の意思で進めるらしい。生きてる時より便利だな。


とりあえず周りの人に合わせて扉に向かう事にした。
雲と扉とフワフワと浮く人。それ以外は何もない。
空は少しどよんとしてて太陽が見当たらない。ここは太陽の上か?下か?
天国ってもっといいイメージがあったんだけどな。

考えながら扉に向かっていると、そばにいた男二人に声をかけられた。

「やあ。君はどうしてここへ?」普通、聞くか?ってゆうか普通じゃ考えられない質問だな。

聞いてきた人は二人共ばらばらな見た目で、一人は少しぽっちゃりして優しそうなおじさんで、もう一人は痩せていて、頭をワックスか何かでたたせている少し怖いお兄さんだった。


「そーゆうそちらはどーなんですか?」俺は自分の事は言わずに聞いた。

おじさんが、「ぼくう~?ぼくはね、自殺したの!仕事がうまくいかなくて女房には逃げられちゃって借金もある!だから疲れちゃって。会社の屋上から飛び降りてやったよ!」...ド、ドヤ顔で言われても...。


お兄さんが続いて口を開く。「俺は事故。仲間とバイクで...まあやんちゃしてたわけよ。そしたら調子乗ってトラック突っ込んじゃったんだよなあ。ま、仲間がいないから多分助かったんだろうな。それで十分だ。」...いい人だ!この人いい人だ!いや、やんちゃだから悪い人か?


「で、君は?」
おじさんがにこやかに聞いてくる。


「覚えてないんです。」


あまり大声で言ったつもりはない。むしろ聞こえたのか分からないくらい小さく言ったと思った。

でも二人の、目を見開いてありえないというような顔を見て、俺は無意識のうちに‘やっちまった'と思った。


『覚えてない?』


二人は同時に言って、さらに同時に

『神様の所へ連れて行かなくちゃ。』

と一言言って、俺を引っ張った。手は一応ある。ずんずんと扉の方に引っ張っられていった。

< 2 / 7 >

この作品をシェア

pagetop