【キセコン】とある殺し屋の一日
第一章
色町の外れにある二人の住処に辿り着くと、藍は与一を裏手の小さな風呂場に追いやり、自分は朝餉の支度に取りかかる。
小さく聞こえる藍の鼻歌に、どんな音量で歌っているんだと思いながら、与一は湯船に身体を浸した。

しばらくすると、湯が異様に熱くなってくる。
不思議に思って、小窓から外を覗いてみると、藍がしゃがみ込んで、一生懸命竹筒を吹いていた。

「藍さんっ! 沸かさないでいいですよ。熱いですっ」

道理で鼻歌がよく聞こえたはずだと思い、与一は格子に顔を近づけて言った。
だが藍は、ひょいと与一を見上げると、べぇっと舌を出す。

「いやらしいよいっちゃんなんか、釜ゆでの刑なんだから~っ」

そのまま、ふぅふぅと火を熾(おこ)す。

「ちょーっ!! 熱いですって! わかりましたよ! 反省してますっ!!」

何だかわからないが、とにかく謝るのが勝ちのような気がして、与一は格子を掴んで叫んだ。
謝るようなことをした覚えもないが、藍の行動に理屈はない。
行動も、まるで子供なのだから。

「ほんとに? 今日はちゃんと、拳銃の練習する?」

上目遣いで言う藍に、そこかよ、と思いながらも、与一は素直に頷く。
途端に藍は笑顔になって、ぴょこんと立ち上がった。

「いい子ね。じゃ、ご飯できてるから、早くあがってらっしゃい」

天女の笑顔で、にっこりと微笑む。
また鼻歌を歌いながら戻っていく藍の後ろ姿を、与一は再び胡乱な目で見送った。
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