【キセコン】とある殺し屋の一日
「今日は依頼、なしですか?」

朝餉の麦飯を食べながら、与一は窓のほうを見た。
いつも依頼人との橋渡し役をしている鴉の‘から公’の姿はない。

「朝いたのは、依頼を持ってきたわけじゃなかったんですか」

「よいっちゃんを捜してもらったのよぅ。お楽しみのところ、お邪魔しちゃ悪いじゃない」

何故か拗ねたように言う。

「別に、楽しくはありませんよ」

「でも、女郎屋じゃない。何もしないで一晩いたわけじゃないでしょっ」

「まぁ・・・・・・店に入るには、一人は買わないといけないですしね」

ぼそりと言った途端、朝餉の膳を挟んで向かいに座っていた藍が、畳を蹴った。
ぎょっとしたときには、すでに藍は膳を飛び越えて、与一の膝の上に。

「痛いっ!!!」

胡座の足の上に飛び乗られて、与一は悲鳴を上げた。

「うもぅ~!! 嫌ぁっ! よいっちゃんが女を買うようになるなんて~~っ」

与一の悲鳴も気にせず、藍は足の上に乗っかったまま、与一の胸倉を掴んできゃんきゃん吠える。

「だから、そういうことを教えておいて、何を今更ですよ」

とりあえず両手に持った茶碗と箸を膳に置いて、与一は藍を引き剥がそうともがく。
が、藍のほうは、がっちりと与一の小袖の襟を掴んで離さない。

「教えたっても、成人になった証としての、特別だもんっ! よいっちゃんは見目良いんだから、うっかり女郎に惚れられるかもじゃないっ。そんなどろどろに、巻き込まれてもいいのぉ? 対処できないでしょう~?」

胸倉を掴んだまま、藍が唇を尖らせる。

「確かに、ややこしいことには、首を突っ込みたくないですね。依頼だけで、十分です」

「そうそ。その依頼、今日はないから、さ、食べ終わったら出かけるわよ」

ぱ、と小袖を離し、あっさり藍は膳の向こうへと戻った。
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