御曹司の溺愛エスコート
「たくさん食べたいけど、思ったより食欲がないみたいです……」


だんだん声が小さくなる桜に真琴が小さくため息を吐いた。


「それでは……煮物だけでもお召し上がり下さい。母が桜様の為に作ったものです」


昨日の夜に母は嬉しそうに煮物を食べさせてあげたいと作っていたのだ。


「芳乃さんが……」


自分の為に何かをしてもらうなんて何年ぶりだろう。


煮物を食べながら涙が出てきた。真琴に分らないように桜は手の甲でそっと拭う。


「……ご馳走様でした。芳乃さんに美味しかったって伝えてください」


うつむき両手を合わせると、桜はバスルームへ行った。


涙は真琴に隠せなかった。桜を見ていると真琴の胸が痛む。


自分にとって桜はまだまだ小さい妹のようだった。



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