御曹司の溺愛エスコート
ホテルの部屋を出ると、蒼真は真琴に電話をかける。


「チケットは?」

『お昼の便です』

「ありがとう。今、婚約解消してきた」

『やる事が早いですね。さすがです』


電話の向こうの真琴の声も弾んでいるように聞こえる。


真琴はふたりを応援していたのだから、無理もないだろう。


「仕事の調整を頼む。それと都内のマンションを探しておいて欲しい」

『かしこまりました』


******


シカゴの古いアパートメントに着いた桜は簡易ベッドに座り込んだ。


疲れた……。
蒼真兄さま……。


バッグから小さなクリスタルのコアラの置物を取り出す。
それを他にも置かれているクリスタルの横に静かに置いた。


その置物達を見ていると涙が出てきた。


もう婚約パーティーは終わっている。


蒼真と愛理が抱き合う姿が脳裏をよぎり、振り払うように首を大きく振った。


もう二度と会わない。
日本にも帰らない。


涙を乱暴に袖で拭き、疲れた身体をベッドに横たえた。


寒い……。


暖房を点けていない部屋。節約するために、着るもので寒さをしのいでいた。


上掛けと毛布を肩までかけて身体が温まるのを待つ。
それを待たずに疲れていた桜は泥のように眠りに就いた。



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