御曹司の溺愛エスコート
シカゴの街は雪が降っていた。
湖にも雪が舞い落ちて美しい光景だ。


こんなにゆっくりとこの湖を見たのはいつが最後だろう……。
グランマ(祖母)が亡くなる前……ハイスクールの時だ。
クラスメイトと一緒に遊びに来た。


蒼真は湖を見つめる桜の遠い目が気になった。
寂しそうな瞳で湖を見ている。


「桜、スープが冷めてしまう」
「どうしてここへ来たの?」
「お前が逃げたからだ……食べてから話そう。まずは食べるんだ」

桜はコクッと頷いてスプーンを手にし、口へ運ぶのを見てから蒼真もコンソメスープを口にした。


食事が終わると、蒼真は桜をチェックインした部屋に連れて行こうとした。


「部屋はいや。話があるのならここで話して」


桜は部屋に行くのを嫌がった。


「人がたくさんいるここで話せるわけがないだろう?」


たしかにロビーはグループ客や家族連れが横行しており、話が出来る状態ではない。
それは桜にもわかっている……けれど、ふたりっきりになれば感情が抑えきれなくなりそうだった。


「桜? 最初から話をしよう」
「蒼真兄さま……」


ようやく桜は観念し、蒼真と共にエレベーターへ向かった。
エレベーターのドアが閉まり、蒼真は安堵した。


周りの客やホテルマンの目にどう映ったか……。
嫌がる女を部屋に連れ込もうとしている男か、妹を叱る兄か……。


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