幸せの明日
「恵…?泣いて…んの?」
涼介がアタシの顔を覗き込み、頬に触れた。
涼介の生暖かい血がアタシの頬につく。

もしこの世に神様がいるならば…
どうか涼介を連れて逝かないで…。
それ以上…何も望みません。何もいりません…。
だから…お願い…。

「恵…小指…出して…み?」
涼介はそう言ってアタシに小指を差し出した。
アタシは静かに頷き、涼介と同じ様に小指を差し出した。

―ギュッ―
アタシと涼介の小指が絡んだ。
「おまじない…」
涼介はそう言って頬笑んだ。
「おまじない…?」
「こうやって…小指を絡めて…《幸せ》って3回唱える…んだ。そしたらな…その人は幸せに…なれるって…昔死んだ親父が…教えてくれたんだ。」

「幸せ…?」
涼介が静かに頷く。
絡めた小指に力が入る。
「恵…。幸せ…幸せ……しあ…わせ…」

―スッ…―
涼介の小指がスッと離れた。
「涼介…?いや…逝かないで!!アタシ…涼介が居なくなったら生きていけないよぉ…!!」

アタシの瞳から涙だけがたくさん溢れた。
「大丈夫…辛い時は…おまじないを…思い出せ…きっと幸せに…なれ…るから…」

「幸せなんかなれなくていい!!涼介が生きてくれてるだけでアタシの幸せなの…!!傍に居てくれるだけで幸せなの!!」

「空…綺麗だな…」
涼介は独り言の様に呟いた。
アタシは空を見上げる。
ホントに…
綺麗だ…。


「恵…。恵は今日も…笑顔で…居ます…か……?」



「涼…介…?」
アタシは涼介を揺さ振る。
「……」
だけど…反応はなくて…冷たかった…。
「いや…涼介っ!!」
「……」
「涼介っ!!涼介…!!りょう…すけ…!!」

何度呼んでも涼介からの反応は決してなかった。
「いや…!涼介ぇぇぇ‐!!!!」

血だらけの…
涼介は…
凄く冷たくて…
いくら揺さ振っても…
いくら呼んでも…
凍った人間の様に…
動かなかった…
喋らない…
人形の様だった…
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