もうひとりの…
私の口の中は、緊張からかカラカラだった。小さくうなずき、勇気を出して表札の横に備えられたインターフォンのボタンを押す。

よく耳にする呼出し音が鳴った後、「…はい」と少し疲れたような初老の女性の声が応対した。私はドキッとなりながら、マイクに向かってしゃべりだした。

「あの… 私、真奈美さんの高校時代の同級生の結城和歌子といいます。おつ…」

お通夜に伺えなかったので、せめてお線香でも…、と言おうとしたのだが、それを待たずに「ちょっとお待ちくださいね」と女性は言ってインターフォンを切った。そして、ほんのしばらく待った後、木製の分厚いドアは、開かれた。

そこには、やはり幾分疲れた顔をした彼女の母親が立っていた。急な葬儀やマスコミの対応で、疲れ果てているようだった。

「あの、すみません。…お疲れのようですから、また日を改めて伺います…」

私はとっさにそう告げて、踵を返そうとした。しかし、目の前の女性は、優しい笑みを浮かべ、私を中に促した。

「いえ、いいんですよ。どうぞ」

その心地のよい優しい声が耳に響いてくると、私はうなずき、靴を脱いだ。



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