もうひとりの…
それからは、もうあっという間だった。

許されない恋だと知った彼女は、自分の運命を恨むしかなかった。心の拠り所を無くしてしまった彼女は…

「追い詰められてしまったのですね…」

遺影の笑顔が、嘘みたいだった。どうしてあんなに美しく微笑むことができるの…?

私はすっかり冷めてしまったお茶をひと口、口にした。

本当に、ひどい運命だ。
彼女が何をしたというの…?

「私は、あの子を救ってあげられなかった…。過去のトラウマに捕われずに、生きてほしかった…」

声を詰まらせ、松田さんは啜り泣く。

その様子を見た私は、なぜ彼女を嫌っていたのか、理解できた気がした。

心に闇を背負って生きていた彼女は、まるで昔の自分を見ているようだったのだ。

小学生の頃、いじめにあっていた私は、心を開くことが中々できず、それ以降ひとに対してうたぐり深いところがある。

心を開くことができなかった彼女を見て、知らず知らずのうちに、昔の自分を重ね合わせていたのかもしれない。

見たくない過去の自分が彼女―
それはつまり、もうひとりの自分―

例えば、何かで深い自己嫌悪に陥ったとき、自分をすごく嫌いになるが、決して"自分"を切り離すことはできない。それと同じで、彼女のことを切り離すことが、できなかった……



< 32 / 40 >

この作品をシェア

pagetop