もうひとりの…
「先に気付いたのは、彼の方だったの。真奈美が私と写っている写真を彼に見せたみたいでね。どこから調べたのか、彼から電話がかかってきて、それで私も知ったのよ」

松田さんは後ろに振り返り、美しく微笑む彼女の遺影を見つめた。

本当の父親は、彼女が生まれる前に死んだ、といい聞かせて松田さんは子育てをしてきた。今更、自分が父親であることを名乗らないで別れて欲しいと、彼にお願いしたこともあったという。

「あの人もそうとう悩んだはずよ。彼は私の言う通りにしようとした。"自分は父親だ"と名乗らないで別れようとしてくれた…。だけどね、事態は思ったよりも深刻で…」

松田さんは、つい自分のお腹に触れていた。

「…あの子ね、妊娠、してたみたいなの」

「え?」

私の体はピタリと止まる。

「産んではいけない人の子を身ごもっていた… 彼は当然、産むことに反対した。その時、彼の血を分けた親子であることを打ち明けざるを得なかったの」

きっと、産みたかったに違いない。

私はそう思った。

好きな人のこどもだ。やっと巡り会えた人の…


< 31 / 40 >

この作品をシェア

pagetop