ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *


ジアがヒトに戻り、ミアが猫になったその日。
事件は起きる。


何の変哲もない夜が、その日だけはどこか違った。





「…風、強くない?」

「だな。…なんか妙だ。」

「…クロハ、お前、魔力が宿っていたりしないか?」

「はぁ?なんで…?」

「時々妙に鋭いな。今日は風が違う。
…なぁ、キース。」

「そうですね。風の香りが…ヴィトックスのものではない。」

「正確な判断だ。」


クスリと妖艶に口元に笑みを浮かべるシュリ。
キースは少しだけ気まずそうに笑みを零した。


「あたし、外見てくるよ。」


ソファーから離れ、ドアに触れた。
ゆっくりとドアを開け、外の空気を吸い込んだ。


「…っ…。」

「ダメだジア!」


キースの鋭い声が耳に届いてるのに、身体が動かない不思議な感覚。
…動けない。身体が傾いでいく。
それなのに、手すら出ない。

< 170 / 424 >

この作品をシェア

pagetop