ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *


なんて暗い世界なのだろう。
それなのにただ、背中は遠くなる。


今の位置からでは誰の背中なのかははっきりしない。
…ううん。あたしはあの背中を知っている。


「キースっ!」


背中は何も答えてはくれない。
それどころかますます遠くなる。


走っているのに、追い掛けているのに。
あなたはただ歩いているだけなのに。
それでも遠い。ますます離れて、冷たくなる。


「行かないで…っ!」



「…ごめんね、ジア。
さよなら、だね。」

「いやっ…!」



悲鳴に近いような叫び声をあげたはずなのに声は届かなくて。
ただただ遠ざかっていく背中を、涙であやふやな視界で見つめていた。


…なんて嫌な世界。
これが夢ならば、早く醒めて。


さよなら、なんて言えないから。
言うつもりも、それを認めるつもりも、あたしにはないから。

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