ハルアトスの姫君―君の始まり―
魔力の封印
ジアの部屋を出て、階段を降りる。
するとそこには瞳を閉じたまま、柱に背を預けたシュリ様がいた。


「心を決めたか、キース。」


シュリ様の妖艶な声が部屋に響く。


「クロハもミアも眠りましたか?」

「ああ。その様子じゃ、ジアに全てを言ったようだな。」

「…言わずにいようと思っていたのですが、それはあまりにも…。」

「『酷』だな、ジアにとっては。そしてお前にとっては『逃げ』だ。
逃げずに全てを話したこと、私は間違いだとは思わない。」

「そう言ってくださると救われます。」


そう答えるのが精いっぱいだった。実際、かなり堪えていた。
ジアの泣き顔は…見たくないものだったから。


「お前は…去るのだな。」

「…全ては俺の責任です。」

「私はそうは思っていない。ジアもそうだっただろう?」

「…はい。でも俺はそう思えないんです。」

「…敵の懐に飛び込んでどうする、キース?」


全てお見通しなのだ、この魔女には。
だから何かを隠そうとしたって無駄で、それでもあがくしかないんだ。


全てを悟られぬように。
せめて心の内くらいは、自分だけのものであるように。


「全ては『ハルアトス』にあると思っています。
隠されたものも、正すべきものも。
それを見つけるために、行きます。」


決めたことだ。
もう後ろを振り返ることも、誰かを頼ることもできない。

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