ハルアトスの姫君―君の始まり―
「なるほどな。
確かに建前ではジョアンナに通用しない。
欺くためには、完全に僕になる他ない、か。」

「はい。」


魔力を抑えることで操りやすいイキモノだと認識させ、手中に入れたと思わせる。そこに意味がある。
彼女の懐に入ることで見えることがあるはずだ。
完全に自我を保てるとは思っていない。
だが、ごく僅かに残された自我だけで切り抜けてみせる。


封印が解けた時には全てを思い出せるように。


「制限は私が加える。お前の記憶も少し削っておくか。」

「お願いします。シュリ様の見立てで構いません。」

「…制限の内容はお前には言わない方がいいな。
余計な記憶を増やせばそれだけ隙ができる。
要はお前が完全な駒になることが目的なのだろう?
僅かな自我を保った状態で。尚且つ、その自我の存在を悟られずに。」

「その通りです。」

「本当に良いのか?」

「何を今更そんなことを…。」

「ジアは…もういいのか?」


別れは告げた。一方的にだけれど。
ジアの気持ちなんて全て無視して、ただ自分の我を貫いた。


それなのに…そんな自分が今更ジアにどんな顔しろって言うんだ。
会わせる顔なんて、もうない。


傷付けたのはあの涙が物語っている。
そんなことは明白だ。もう会えない。

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