ハルアトスの姫君―君の始まり―
「お喋りは終わりだ、シャリアス。」

「…そうですね、残念ですが。」

「心にもないことを言うな!」

「心にもないなんて…そんなことはありません。」

「黙れ。」


指先に力を集中させる。
奴の得意な魔法は〝風〟
それならば、その風を超える〝雷〟を。


迷いを捨てろとジアに言った。
それなのにこんなに迷う自分はどうかしている。
迷うなと人に言っておきながら行動に移せないようでは…ジアにあわせる顔がないというものだ。


「…っ…!」


シャリアスの両手から放たれた風をすんでのところで避ける。
しかし迷い故に動きが鈍り、頬をかすめたその風に切られ、頬から僅かに血が滲み出る。


「…どうも鈍いですね、シュリ・ヴァールズ。
あなたの魔力はこんなものではないでしょう?
何故、本気になれないのです?
…あなたの命がかかっているのですよ?」


どうでもいい、そんなもの。
永久に近い時間もいらない。
全てを賭けて、全てを捨てても手に入らない。
―――一番欲しいものだけは。


またしても放たれた風が先程よりもスピードを速めて接近してくる。
今度は完全に避けきった。


「そうですよ。それでなくては殺す甲斐というものがありません。
手加減など不要です。」

「言われなくてもそんなものはしない。
たかだか頬をかすめた程度で調子に乗らないでもらおうか。」


捨てよう。自分も、想いも何もかも。
集中力を高め、指先に力を集めていく。


風が来る、そう思った瞬間に指先の力を解放した。

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