ハルアトスの姫君―君の始まり―
「…余裕、ありすぎよ、キース。」
「君を目の前に余裕なんてないよ。」
「そんな風には…見えない。」

 少し拗ねた顔も愛しい。そんな感情を、一つ一つ教えてくれるジアに敵う日なんてきっと一生来ない。それはどれだけ幸せなことなのだろうとキースは思う。灰色に戻った世界に光を見せてくれたのは、ジアだ。

「ころころ変わる表情を一番近くで見せてもらえる。…それって、こんなに幸せなことなんだね。」
「幸せ?」
「うん。」
「…なら、あたしも幸せ。」

 そう言ったジアはゆっくりとキースの背中に手を伸ばした。ジアがこんな風にキースを抱きしめることは珍しかった。突然のことに一瞬は戸惑ったキースだったが、全身に広がる愛しさに身を委ねることにした。

「大好きなスノードームの中に入れて、…キースがいてくれて。…ちょっと幸せすぎる冬の始まりって感じ。」
「スノードーム、本物が見てみたいな。俺、よくわからないし。」
「そうなの?でも…本物はこれよりもずっと小さいし…こっちの方がずっとすごいし綺麗だよ。」
「だってジアが好きなものだろう?それを見たいよ、俺は。」
「…あたし、キースの作ってくれたスノードームの方が…好き、だけど。」

 真っ赤な頬をさらに赤くしながら、消え入るような声でそう言うジアに、キースの胸の奥がきゅうっとする。こんな感情を、こんな熱を、どうして君はこんなにも与えてくれるのだろう。
 単純な言葉でしか表せない。そして、それを繰り返すことしかできない。それでも、口をついて出る言葉を止めたいとは思わない。

「…好きだよ、ジア。どれだけ言っても足りないくらい、君が好きだ。」
「な、と、突然どうしたの、キース…。」
「君を好きなこと、君が俺を好きでいてくれること、それがどうしようもないくらい幸せなことだって、思うから。」

 赤い頬に口付ける。魔法の効力が切れ、雪が舞い落ちてきた。

「冷た…。あれ、消えてる?」
「術者が動揺したから消えちゃったよ。」
「動揺?」

 もう一度強く、ジアを抱きしめる。冷たさなんて微塵も感じない。冬だというのに、空気はこれ以上ないというほどに冷たいというのに。

「…もう一度キスしたいなぁとか、色々思いながらジアに触れてるからね。」
「っ…そ、そういうことは言わなくていいの!」
「そうなの?」

 真っ赤な頬をつつくと、余計に赤く染まった。そんな姿に、自然と頬が緩むのを感じる。

「またやろうか、スノードーム。」
「うん!また見せて!」

*fin*
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