2222―SF(すっとぼけフィクション)―
◇◇◇◇◇


日本を離れて教団に入れられたとき、持っていったのはその時に身につけていた物と、国名と何かの番号が書かれたカードだけだった。それはかつて日本国民であったことを証明するためだけのものだ。教団に入るときに、誰もがその記録を抹消されてしまう。そんなことができるほど、教団の力はものすごいんだ。パスポートさえ失効してしまった。なぜなら、暴れだした植物に有効な兵器を唯一持っている国だから。カードも、当時の教団の日本支部から発行されたもの。


あと、この国では元教団員への配慮として、再入国した者のそれまでの過去を記録しないことになっている。不当な扱いや迫害を防ぐのが目的で。オレが持っていたカードも、入国の時に破り捨てられた。もうあなたはあの悪魔のような一団とは無関係ですよ、ということだ。包帯があるから、知ってる人にはすぐわかるけど。


「ま、どっちにしろもうすぐあいつのところへ行くんだ。オレには関係ねぇ……なんか、もう疲れたよ。いろいろと」


呟く。果てしない虚しさと罪の意識の中で。


「ほんとうに、もうおわりなのね、あたしたち」


「だな」


「影であんたの事を監視してた教団が、もうすぐ出てくる……なんてこと、ないか」


「ないよ。それより、あとは頼むよ。オレもユキに、少しでも長生きさせて……幸せな時間過ごさせてやりたい。あいつも、大変だったんだ」


「わかった。最後の仕事、お願いね。あたしにとっても、きっと最後。死ぬのは怖いけど、せめてできることはやらなきゃ。それじゃ行くね。最後に会えてよかったよ」


それまでで一番柔らかい、スミレの声だった。


「お前、変ったな。なんか」


「ドSが生きていくには、この世は辛すぎただけよ」


……なんか、意味のわからない言葉のあとで、スミレの感触が消えていった。



エレベーターのしまる音が、聴こえた。


そして、
誰もいなくなった。


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